彼氏が処女厨じゃなかった話。

彼氏が出来た。めっちゃ私のことを好いてくれる彼氏ができた。


告白されて、「いいですよ」と応えると、「やばい、嬉しさで膝が震えてる」と言ってくれた。


会社で私のことを見るとニヤけてしまうからなるべく視界に入れないようにしているし、見ちゃった場合は嫌なこと思い出して必死に堪えてる、と言う。


その反動で、会社終わりに二人でごはんに行くとめちゃくちゃ見てくる。「食い入るように」とはこのことかと身を持って体感出来るほど見つめて「可愛い」と愛情たっぷりの眼差しで言ってくれる。


人気の無い夜の公園で、ベンチに座り、少しキスをして、私の手を握り「手ちっちゃい...すべすべ...全部愛おしい」と囁いてくれた。


惚れられてんなぁ〜〜としか言いようがない。自分でも思い出して書いてて胸やけしそうなほど甘ったるい愛されっぷり。当時の惚気を聞いてくれた友達には多大なる精神的負担をかけただろうなと思う。マジごめん。

これほどの愛情をぶつけられたことは恐らく赤ちゃんの時以来。愛されるってめちゃくちゃ気持ちいい。「可愛い」「好き」と言われるたび、自己承認欲求が驚くべきスピードで満たされる。もうSNSの「いいね!」なんて全然比じゃない。めっちゃ幸せ。なんか肌の調子もいいし、体重も減るし、生理周期もめちゃくちゃ整う。彼氏ってすごい。ただ、ご存知の通り、赤ちゃんの時に母親から与えられた愛情と決定的に違うことがある。そこには性欲が含まれている。

応えたいなと思った。


正直私の好きと彼の好きは全く釣り合っていなかった。

彼が愛おしそうに私の髪を撫でながら「好きだよ、大好き。愛してる」と囁いてくれるのに対して私は気まずそうに「私も」と言うのが精一杯だった。

このズレはきっと彼を不安にさせてしまう。だから、SEXというわかりやすい形で、彼の愛情に応えてあげたい。


と、いうのは都合の良い言い訳で、はっきり言って私の性欲が爆発していた!二十数年間処女を拗らせていた私は、自分のことを好きと言ってくれる生身の男を手に入れ、溜まりに溜まった性欲が、盛大に、爆発していた!!!!


彼の方も若い男として御多分に洩れず性欲がフルスロットルしており、3回目のデートでラブホへいこうといわれた。

まあ向こうもまさか私が処女とは思っていないし、カラオケでめちゃくちゃエロいキスをして夜を明かした翌週なのでそりゃもうお泊まりしてもええやろと思ったのだろう。

それにしても奥手そうな彼にしては展開が早くて、思わず「体目的なの?」と意地悪な質問をすると「うん!だって好きだもん!したいに決まってる!」とめちゃくちゃまっすぐな瞳で答えられて最高だな〜と思った。


ちなみに私の貞操観念は全く固くない。愛し合ってる相手としかしたくないとか、結婚するまでは処女は守るべきとかそんな考えは毛頭ございませんでした。ただただチャンスがなかった。というかビビってできなかった。


いかにも処女です純粋です!なんてキャラでもないし、そんなふうに思われたくもないので髪は明るめで化粧もちゃんとするし服だって気をつかう。飲み会の時は下ネタにもしっかりのる。


まさかこの私を交際経験なしの処女とは誰も思うまい、という謎のプライドのせいで、いざヤれるかもしれないというチャンスが舞い降りても、相手に処女だと打ち明けて引かれるんじゃないか、バカにされるんじゃないかと怯えて逃げてしまう。


そうこう言ってる間にもどんどん歳をとり、処女であることがどんどん息苦しくなり、余計にチャンスを逃してしまう悪循環。


やばいな。やばいなぁ。

そう焦っていた頃に出会ったのが彼だ。


穏やかで、なんかちょっとピュアで、何より私のことをはちゃめちゃに好きだといってくれる。


全身から好きが滲み出てて、少し緊張しながら抱きしめて、そっと私の肩を優しく包み込む手のひらは、付き合ってもないのにホテルに行こうと私の腕を引っ張った男の手とはとは全然別物。

この人なら大丈夫。

処女だと打ち明けて引いたりなんかしない。ちょっと意外だなって顔をして、優しくすりよと約束してくれて、私が他の誰のものにもなったことがないことを心の底から喜んでくれる。そんな気がする。


あぁ、良かった。

後生大事に守ってたきたわけでもないし、とっとと捨ててしまいたいと忌々しく思ってたこの処女膜も、私のことを好きで好きでしょうがない彼なら喜んでくれる。そうなら今までの苦労も報われる。


そんな想いで、腹を括って、恥を忍んで、彼に告白した。


「あのね、お話があるの」

電気を消したホテルの一室で、彼の膝に手をついて真剣な顔でそう言った。

私の気持ちが自分の「好き」に伴っていないなと勘付いていた彼は、もしかして別れようと切り出されるのではないかと少し冷や汗をかいたらしい。

「あのね、恥ずかしいんだけど、引かないでね....」

俯きながら、時々上目遣いに彼を見て前置きをする。

↑これはあくまでもポーズである。処女であることを恥じ、コンプレックスに思っている女を全力で演出し、彼から「全然恥じることじゃないよ。むしろ今まで俺のために守ってきてくれてありがとう」という言葉を導き出すための前フリなのだ。

よし、今だ。


「私、経験がなくて、処女なんだ...」


可愛いーーーーーっ!!!!!

完璧なもじもじ恥じらいっぷり。袖は萌え袖。少し頬を赤らめ、眉は八の字困り眉。目はうっすらと涙をためている。

完璧に可愛い。

彼はもうノックアウトで大喜びに決まってる。さあ、どうぞ、「ありがとう」って言え!!!!



「あそう」


太郎?


ん?なんかさらっと言われた。

思ってたのとなんかちがう。

念押ししとこう。


「引かない...?」

「全然、引かないよ。処女でも非処女でも俺が増田が大好きな気持ちは変わらないよ」

お、おおぅ。そうそう。それで?


「別に俺、処女厨じゃないから」




いや、なれよ処女厨に。たとえ今までの人生で一度も処女崇拝したことなくとも今この瞬間に処女厨になれよ。今すぐ処女厨になってめっちゃ好きな彼女が処女なことを死ぬほど喜べよ。なんだそりゃ。殴るぞ。



以上。彼氏が処女厨じゃなかった話です。